「ムリムリムリ!絶対にムリ!」

青空の下、情けなく響き渡る悲鳴にさすがのゲンも苦い顔をした。

「そんな暴れないでって。痛いことはしないんだから」
「嘘だあ!!」
「まあ嘘なんだけど。でも、ほっとくとずーっと痛いままよ?」

ごもっともだ。今、私の手のひらには大きめのトゲが刺さっている。
手が空いたので木材を運ぼうとしたらこの様だ。

「うう、余計なことするんじゃなかった」
「ほんとにね」

酷い。今のはチクッとどころかグサッと来た。
でもゲンがこういう本音をうっかりこぼすような人じゃないのは分かってた。
つまりわざとだ。
やるならやるで手袋をするとか、そういう準備をすれば良かったのに。

「もっと自分を大事にしてよってこと。ほら、ちょっとだけ痛いよ〜?ちょっとだけね……」

ゲンがお喋りな口を閉じて、トゲの周りを圧迫しながらどこからか持ってきたらしいピンセットを近付ける。
いよいよかとキツく目を閉じていると、しばらくして握られていた手が解放された。

「思ったほど痛くなかった……」
「でしょ〜?あ、まだ行かないでね。消毒しなくちゃ」

大袈裟に騒いだ手前言いづらいが、大怪我という訳でもないのに甲斐甲斐しく手当てをしてくれるゲンをつい見てしまう。

「傷、付けたらダメだよ。綺麗な手なんだから」
「ゲンさ、お母さんみたいって言われない?」
「初めて言われたけど……」

一仕事終えましたみたいな顔をしているゲンに、私はまだお礼も伝えていなかった。

「ありがとう」
「いーよ。役得だったし」
「うん……?そう」
「あー名前ちゃん、分かってないでしょ」

それから数日間、傷の治り具合を見に来てくれたので、やっぱりゲンは世話焼きさんなんだなぁと思った。



2020.6.4


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